2009年03月06日

Brompton M5R その4

 今回の改造の中で5速化に次いだポイントがこのハブです。ハブの内部にエストラマが入っていて、それが圧縮伸張する事で路面からの衝撃を柔らげるという構造になっています。実際にハブが動いている所はPantourのサイトで見る事ができます。

Pantour Suspention Hub animation gif
Pantourのサイトより転載

 僕が購入したのはDeliteというモデルでエストラマの稼働域(travel)は最大12mmとなっています。しかしBromptonでは物理的な理由で、稼働域が最大になる設定にするとこのハブ(を付けたホイール)を装着する事ができません。稼働域(というよりも実際には稼働方向)は5段階に調整できます。僕は2段階目(4段階目?)に設定していますが、これもちょっとした工夫が必要でした。Bici Terminiさんから送られてきた時は3段階目(中央の位置、ここだと稼働域が1番短くなる)に設定されていました。  さて、次の画像を見て下さい。

Brompton front fork

 通常、自転車のフロントフォーク付近は上の画像のような位置関係になっています。ここで重要なのはフロントフォークのエンドとリムのセンタが重なっている事です。重ねて言いますが、普通はリムの中央とハブの中央、そしてフロントエンドは全て重なります。しかしPantourのSuspentionハブを装着すると次の画像のようになります。

Brompton front fork

 これを見るとリムの中央(且つハブの中央)とフロントエンドが離れています。何故ならばPantourのハブでは、このエンドとリム中央の距離がエストラマの稼働域を確保するために必要だからです。
 次の画像は通常のフロントとPantourのハブを使った場合のフロントを重ねた画像です(フォークのエンドが同じ位置になるように重ねてあります)。

Brompton front fork

 このようにPantourのハブを装着すると、フォークに対してホイール全体が前斜め下に出っ張ります(フォークから遠ざかっています)。さて、このようにホイール位置が変更されるとどうなるでしょうか?

 そうです。ブレーキアーチとホイールの位置関係が問題になります。Bromptonで採用されているサイドプルブレーキは、その構造上フォークに固定されています。従って、ホイールがフォークから遠ざかった場合、ブレーキがリムに届かなくなる可能性があります。実際はリムに届かなくなるほど遠くにはなりませんが、リムがフォークから離れる方向に移動した結果、ブレーキのパッドがリムではなくタイヤに当たってしまう事になります。この問題があるため『稼働域が最大になる設定するとBromptonに装着できない』わけです。
 実際に、いろいろ弄ってみましたが何も加工しない状態では3段階目が精一杯でした。2段階目(4段階目?)にするとブレーキのパッドを可能な限り下げても、正面から見て左側のパッドの上端が僅かにタイヤに触れてしまいます。パッドのリムに当たる面を少しだけ下方向に傾斜させれば、パッド上端がタイヤに擦れるのを回避できそうだったので、パッドのネジ穴側をヤスリで削って傾斜を付ける事で何とか2段階目(4段階目?)にして装着する事に成功しました。

 ブレーキ以外にも問題があります。Bromptonはリアキャリア付きのモデルで、リアのコロコロをEazy Wheelなりインラインスケートのホイールなり、大きな径のものに変更していれば、折りたたんだ時に前輪が接地せずに済みます(その状態で転がしても前輪が地面を擦る事がありません)。
 しかし、このハブを装着するとフォークから下方向にタイヤが出っ張るのです。僕はリアキャリア付きでEazy Wheelにしていますが、この出っ張り分があるために折りたたんだ状態で前輪が接地するようになってしまいました(これについては既に解決案を考えてありますが、まだ実行していません)。

 さて、これだけ問題のあるPantour Suspention Hub Deliteですが、どれだけの効果があるかと言うと……極めて微妙です。乗ってすぐに感じられるようなものではありません。僕はMoultonには乗った事がありませんが『Moultonのようなシルキィライドになるぜ』というのはやや過剰な評価だと思います。
 ただ50kmくらいの距離を走るとエストラマの恩恵を感じる事ができます。フロントからの衝撃を受ける、手首や肩の疲労が少ないですね。僕は標準のMハンドルではなく、それよりも5cm程度低いハンドルに換えているので、やや前傾の乗車姿勢になっているのでより強く恩恵を感じているかもしれません。
 多分、エストラマの恩恵よりもベアリングのスムーズさの方が明確に感じる利点なのではないかと思います。Brompton標準のフロントハブのベアリングはかなり酷いものですし。

 このハブがお勧めか、と問われると

  • 多少の重量増が気にならず
  • この円高ドル安の中で海外通販で購入する英語能力か気合があり
  • 変わったものが好き

な人になら勧められる、という所でしょうか。

 さて長々と続きましたが、これにてファーストインプレッションを終わります。多少書き残した所もあるので、追加する事もあるかもしれませんが……。

posted by Dead Poet at 10:44| Comment(10) | TrackBack(0) | 自転車 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
先ず貴重な情報を大変丁寧に説明されていることに感謝を致します。
パンツアーのサスハブは以前他のサイトでも同じような感想が記載されていました。
アイディア商品のようですね。
モールトンもよくシルキーサスと言いますが、しっかりした専門店で正しい調整をしてもらわないとグズグズで妙に柔らかいサスペンションということになります。
私もファインチューニングを輸入元のダイナベクターで行ってもらって初めてシルキーサスの意味が分かりました。そしてその差にも驚きました。
つまり設計、機構がいくらよくても調整でサスペンションの印象が大きく異なるということです。
また、乗り手によってサスペンションに求める感触は異なりますので一言でファインチューニングということは言えないかもしれません。
サスペンションの設定は経験と大変根気が必要、そしてデリケートな作業だと思います。

ブロンプトンは大変完成度の高い自転車だと思いますが、小径車故の問題点、特にフロントタイヤから受ける振動は距離が長くなるほど体にこたえる感じが致します。
そういう意味でパンツアーのサスハブはブロンプトンユーザーにはついつい妄想を抱かせる品物ですね。

今回のインプレで私が一番関心を持ったのはBBの変更です。費用に対して効果が大きそうです。
大変参考になりました。またいろいろ教えてください。
失礼致します。
Posted by mincoro at 2009年03月06日 23:11
引き続いて、こんにちわ。
mincoroさんも書いてはりますが、丁寧な記事を有り難う
ございます。流石に私の期待した様に詳細な図まで入れて頂き、ある意味この種の情報では一番進んでるのではないかと
思います。
可成り参考に成りましたし想像していたの大体おなじ
感じだと思っています。
恐らくは、中〜長距離でその真価を発揮するのではないかなと
思っています。以前、チタンモデルのPに乗せて貰った時に
同じPハンドルなのに振動の吸収が全然違っていました。
その時に実感したのは「これは長距離でも疲れが出にくいの
ではないか?」と言う事でした。
ブロ自体のノリ味には何ら不満は無いのですが、ご承知の
様に年間10,000km程は乗る様なのでこれを付ければ長距離を楽に行けそうやなと言う風に思ってます。



引き続いての追加記事を心待ちに待ち居ります。

Posted by Xinyi Folders at 2009年03月08日 11:47
●mincoroさん

 どもです。BBの変更はとてもお勧めです。安価なので人にお勧めしやすいです。僕は挑戦しなかったのですが、フロントハブのベアリングをシマノ製の精度の高いものへ変更するというのも安い改造ながら、効果を得られそうなんですよね。ベアリングだけならDURA-ACEでも1000円くらいですし。

●Xinyi Foldersさん

 どもです。参考になったようで何よりです。
 チタンモデルでもフロントから感じる振動が違いましたか。それは興味深いですね。クロモリのフォークと比べてチタンのフォークは振動吸収性に優れていたんでしょうか。
Posted by 死せる詩人 at 2009年03月09日 10:55
>チタンモデルでもフロントから感じる振動が違いましたか。それは興味深いですね。

ミズタニはその辺を押し出さないのは本当に勿体ないと
思います。広告とかマーケティングが巧くないですね。
私は、自転車とか金属の効能に就いてはなんにも知らない
んですけど、チタンモデルに乗った時に印象は振動が
全然違うと言う事でした。向こうも私のブロに乗ったの
ですが、「振動が違う」と言うてました。
連合王国の型録にはたしか、ちゃんと「弾みが良い」
とか書いていた筈です。現在出先ですんで(また、モバイル
でネットです。)英文型録で確認できませんが原文には
その違いを謳っていました。
チタンならそう言った意味でハブダイナモが良いと思って
ますが、クロモリにはハブサスやなと思っています。

もっとガンガン乗ってからの記事を楽しみにしています。
Posted by Xinyi Folders at 2009年03月09日 20:08
●Xinyi Foldersさん

 どもです。ほー、チタンだと振動吸収性が高いですね。ちょっと興味が出てきてしまいました。チタンフォークだけ個人輸入してみようかな。そうすると、リア三角もチタンにしてしまいたくなるとは思いますけどね(^^;
Posted by 死せる詩人 at 2009年03月10日 11:04
こんばんは

>フロントハブのベアリングをシマノ製の精度の高いものへ変更するというのも安い改造ながら、効果を得られそうなんですよね。ベアリングだけならDURA-ACEでも1000円くらいですし。

BB交換と共にフロントハブの交換も良さそうですね。
特に小径車はジャイロ効果が少ないので精度の良いベアリングのハブに変えることは大変有効ですね。
有益な情報を有り難うございます。

>Xinyi Foldersさん

チタンのフォークはそんなに振動が違いますか?
私も一度試してみたいです。
チタンは異種金属との接点に摩擦熱が起きるという問題もあるそうですよ。
よって接点には特殊なグリースを塗る対策も必要と聞きます。
一番の問題はお値段ですが。(笑)
Posted by mincoro at 2009年03月10日 22:38
●mincoroさん

 どもです。接点で起きる摩擦熱というのは不思議ですね。摩擦熱というのは、当然擦らないと発生しないので、Bromptonにチタンパーツを使った場合、リア三角とフレームの接合点及びフォークコラム内(共に通常はグリスアップする部分)くらいでしか大きな摩擦熱は発生しそうにありません。また、チタンでなくとも(というか金属同士でなくとも)摩擦すれば熱は発生するわけで、それがチタンの場合だけ問題になるのは何か不思議です。
 チタンに限らず異なる金属同士が接する場所では、電位差が発生して電流が流れてしまい、その部分が腐食する電触という現象があります。電触はグリスアップさえすれば基本的には回避できます。電触対策用の特殊なグリスもあります(チタンプレップとか)。
Posted by 死せる詩人 at 2009年03月13日 08:07
こんちは

丁寧にコメントをつけて頂き有り難うございます。
先ず、この件に関してしっかりとした知識を持っている訳ではありませんので詳しいことは分かりませんが(笑)
チタンは異種金属と組み合わせると比熱容量や熱伝導率の差による過剰な摩擦熱が生じ、焼き付きを起こし易いとあります。

http://www.bicycle55.com/archives/532352.html

自転車に使われるチタンは合金でありBromptonに使用されるチタンがどのような性質をもった合金であるか詳細は分かりませんので上記の件が当てはまるとも言えません。
一般にチタンの性質としてアルミや鉄に比べて熱伝導率が低いくので組み合わされる他の金属との間で上記のような現象が起きる可能性があるということだと私は解釈しました。
電位差、個人的に懐かしい響きです。学生時代にもう少し勉強しておけばよかったと思います。これでも電気工学科卒です(爆)
上記で言われることと電位差とは異なる事と解釈したのですが。
読書家で知識豊富な詩人さんですのでまたいろいろ教えてください。
Posted by mincoro at 2009年03月15日 22:14
●mincoroさん

 比熱容量の差が摩擦熱に影響するというのは知りませんでした。気になるので調べてみます。熱力学はざっとしか勉強していないので苦戦しそうですが。
Posted by 死せる詩人 at 2009年03月20日 10:10
自分用メモ。キヨさんのページにあるハードエラストマを試した感想の記事

http://blogs.dion.ne.jp/brompton/archives/9384638.html
Posted by 死せる詩人 at 2010年05月11日 16:19
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